1997年 建設大臣賞~特選~

第15回まちづくり設計競技/「大都市近郊計画住宅地」(東京都町田市を想定)

農住・林間都市。

自然環境との本当の共生(奇をてらわない,装置化されない)が満喫できる“都会生活“を保障します。

 私達は、大都市近郊での“農地”を含む住宅地開発では、現存する農家や農地・自然林を含む田園風景を最大限に生かしながら、土工量・造成範囲とも僅かの「自然地形活用型プロジェクト」として構築すべきであると考えています。  このために、本地区では、現状地形に沿った“穏やかな曲線”の区画道路による街区構成を基本としていますが、幸いにも「南北街区」が主体的になることから、建物と建物の間の庭空間によって街全体に“ゆとり”が生じ、正に「農住・林間都市」とでも言うべき存在に設らえることが可能になっています。

 このために、街全体の“空間構成”としては、北側の既存集落に向けて“開放感”を醸し出すように、本地区の中央北端部の一等地には“コミュニティコア”を構成する「集会所」と「街区公園」(調整池を含む)を配置しています。

 また、これに続く形で南北方向には、全ての生命の源泉“水”を湛える環境軸として連続的な「調整池」を設置し、これにクロスする東西方向には、現況“里道”の風情を醸 し出す緑道ネットワークシステムを構築しています。

 そして、この「農住・林間都市」に特有な“生産緑地”については、現況畑地を中心に 確保しつつも、本地区の「水と緑の環境軸」の形成や農園付き集合住宅地の環境形成に寄与させるようにしています。また、将来の農地転用に伴う“二次開発”の可能性に留意し、街全体が混乱に陥らないように工夫しています。

 この「農住・林間都市」の住宅地では、戸建住宅が全体の“地”を形成し、幾つかの種類の集合住宅が“図”を形成するようになっています。  戸建住宅地の大部分は、自然地形活用型の「現況樹(竹)林付き戸建住宅群」で占められており、木漏れ日が“暖かく”も“涼しい”感じを与えてくれ、仮に家が建たなくても“樹(竹)林”として社会貢献してくれそうです。

 既存の4軒の農家は現位置に存置し、コミュニティの活性化に寄与してもらう願いが込められています。そして、既存農家以外にも、大きい土地・沿道の土地など特殊住宅地(住宅でない可能性も含めて)随所に組み込んでいます。

 一方、幾つかの種類の集合住宅地としては、先ず、本地区北端に沿う幅員7mの生活幹線道路に沿って「αルーム付きメゾネットハウス」を配置し、道往く人との交流を楽しむことができるように配慮しています。次いで、本地区中央を南北に縦断する「水と緑の環境軸」に沿って、現況樹(竹)林の中に楚々と建つ瀟酒な二面・三面開放の“環境共生型”の「林間スターハウス群」を配置し、本地区のシンボルゾーンに位置づけています。

 その南側には、さらに南方へと続いている“森”との一体感を感じられるように、静かで空気が美味しい「林間タウンハウス」を配置しています。

 本地区東南には、現況畑地を中心とする“生産緑地”を取り囲むように、土との暮らしが楽しめる「農園付きタウンハウス」を配置しています。

 私達は、以上のような形で自然環境との本当の共生(奇をてらわない・装置化されない)を満喫できる“都会生活”を保障できると考えています。

●審査委員会による講評

特選〔建設大臣賞〕
成瀬恵宏・小澤洋介・藤田裕芙 小賀坂卓也・高田剛維(5名)
この作品は、農家・農地・樹林など既存の自然地形や風景を残しながら、現況地形に合わせて住宅や生産緑地を配置した計画で、生活イメージをかきたてる優れた提案です。 現況水路の位置に調整池と緑道を設け、周囲に生産緑地・農家・集合住宅を配すること によって開放感のある魅カ的な空間を形成しています。

区画道路は、現況地形に無理がないように沿わせていますので、自然に穏やかな曲線となり、地区全体が変化に富んだ柔らかな街並みとなっています。
生産緑地は、できる限り現況の農地を活用しています。また、生産緑地内には里道的風情のある緑道が地区内にネットワーク化され、将来の開発にも対応できるよう配慮されています。
集合住宅のタイプは、2種類提案されています。一つは周辺部の板状ではあるが、小さく分節されて戸建住宅のスケール感と違和感のない型のもの、一つは中央部にスターハ ウス型の3戸1のもので、これも戸建住宅スケールとマッチしています。
農家と戸建てや集合住宅の新住民が、農地や樹林地という環境資源を介してコミュニティを形成していくということが実感される計画内容となっています。